少年法改正問題に関する会長声明
1999年(平成11年)2月8日
神戸弁護士会 会長 小越 芳保
法制審議会は、去る1月21日に、「少年審判における事実認定手続の一層の適正化を図るための少年法の整備等に関する要綱骨子」を採択しました。
また、自民党政務調査会法務部会少年法に関する小委員会は、少年法の刑事罰対象年齢を、現行の16歳以上から14歳以上に引き下げることなどを内容とする改正案を国会に提出する方針を示しています。
少年法は、教育基本法や児童福祉法とともに、非行を犯した少年の健全な成長を支える基本法であります。少年健全育成の理念はその中核をなすものであり、この健全育成の理念をより実効化して少年の主体的立ち直りを促すためには、より一層少年に対する適正手続の保障を充実させる必要があります。
要綱骨子は、再審、一事不再理および被害者通知制度の創設の点を除き、少年審判廷における職権主義構造の下での検察官の関与、観護措置期間の大幅延長、検察官の抗告権の付与および限定された必要的付添人制度であって、少年の健全育成に逆行するものといわざるを得ません。審判廷での検察官と付添人の事実を巡る対立の中で、少年審判の本来的機能である教育福祉的機能が大きく損なわれることになるばかりではなく、事実審理において、成人よりも表現力、理解力などにおいて未熟なため十分に防御能力が発揮できない少年が、伝聞法則の不採用などの点において刑事訴訟手続よりも遙かに不利益な状態におかれることになること、長期間に亘る身柄拘束が少年の立ち直りにとって大きな弊害となることなどにより、健全育成および適正手続の保障の理念が現行制度より大きく後退いたします。
少年に対する刑罰権の行使は、非行の抑止に繋がるというよりは、前科というラベリングや収容施設での少年に対する教育の不徹底などにより、少年から更生の機会を奪う結果になる恐れがあります。最も刑罰化が進んでいると言われているアメリカでは、少年の凶悪事件が高水準を示したままで、厳罰化が少年凶悪犯罪の抑止になっていないと指摘されています。
よって、要綱骨子および自民党案に反対するとともに、国会に対し、少年法の改正案を審議するにあたっては、親や教師、心理学者、精神科医、家裁調査官、児童福祉、保護矯正関係者、そして犯罪被害者などの様々な国民の意見を聴取しながら慎重に審議することを求めます。