火災保険・火災共済の加入希望者・契約者に配布すべき書面並びに同説明内容に関する提言
1998年(平成10年)10月12日
はじめに
ご承知のとおり神戸弁護士会(以下、「当会」という)では、阪神・淡路大震災後の火災を契機として問題点が明らかとなったいわゆる火災保険約款・火災共済規約上の地震免責条項に関連して1996年(平成8年)6月一般消費者である保険・共済契約者の正当な利益を擁護するとの立場から、損保各社及び各共済組合に対し、提言を行っております。
その後、当会(消費者保護委員会)は、1997年(平成9年)3月に上記提言内容に対する損保各社及び各共済組合の率直なご意見を聴取させていただき、かつ、同年7月には火災保険・火災共済の勧誘あるいは契約時に契約者に対し、配布している書類等の送付を関係団体より受け、その実情の把握につとめてまいりました。
その結果、火災保険・火災共済の勧誘時あるいは契約締結時の、配布されている書面、説明内容・方法につき改善すべきいくつかの事項があるとの結論に達しましたので、損保各社及び関連共済組合に対し以下のとおりの提言をあらためて行うことにいたしました。
内容をご検討のうえ、消費者保護の観点から適切な改善策をおとりいただきたく本提言を行う次第です。
提言事項
I.火災保険
第1.火災(住宅火災)保険の勧誘・契約締結時における地震免責条項、地震火災に関する説明内容・説明方法の実態。
1.交付される書面
(1)当会の調査結果によれば、保険契約者に交付される書面並びに交付時期は以下のとおりである。
[1]勧誘時
A「パンフレット」(リーフレット)
[2]契約時
B「契約のしおり」
C「火災保険申込書」
D「重要事項説明書」(火災保険をご契約いただくにあたっての 重要事項の説明)
[3]契約締結後
E「火災保険約款」(郵送)
(2)パンフレットにおける地震免責条項部分の記載は、損保各社まちまちであるが、イラストを用いたりカラー印刷により注意をひかせる等契約者の理解を得やすくするための工夫がなされている。
しかし、地震免責条項の説明として例えば、「地震・噴火又はこれらによる津波の場合、保険金は支払われない」としか記載していないため、延焼・拡大火災が免責になることが伝わっていないものや、「地震保険」というタイトルのもとに地震免責条項の説明がなされているため地震保険に加入しない契約者がその部分を見落とす可能性が高い体裁のものも見受けられる。
(3)「契約のしおり」は、確認できたしおりの内容は各社同一であり、共通に作成していると思われる。「契約のしおり」は、表紙のすぐ裏の頁に「特にご注意いただきたいこと」とのメインタイトルのもと「地震保険について」とのミニタイトルの欄があり、同欄に地震免責条項の内容が地震による火災の延焼・拡大についても火災保険金が支払われないことを含めて大きな活字で且つ背景をピンク地にして目をひきやすい体裁で比較的判り易く印刷されている。但し、同記載部分の「ミニタイトル」が「地震保険について」となっていることから、地震保険に加入しない契約者が読み落とす危険性がある。
(4)「火災保険申込書」は数枚の複写式になっており、いずれも「火災保険契約の申入捺印欄」の直近箇所に「地震保険確認欄」が設けられ、地震保険に加入しない契約者に対しその旨を確認させる意味で同確認欄に捺印する体裁となっている。又、同確認欄の捺印個所には小さな字で「地震保険は申し込まない」旨の印刷がなされている。
かように火災保険申込のための捺印欄と地震保険を申し込まないことを確認させるための捺印欄が直近に配置され、且つ、上記のとおり「地震保険は申し込まない」旨の活字が小さいことから、契約者は火災保険申込時に確たる認識を持つことなく上記確認欄に捺印をしてしまう恐れがある。この点は、阪神・淡路大震災以前から指摘がなされていたが改善されていない。
(5)「重要事項説明書」は、阪神・淡路大震災後に作成されるようになったとのことであるが、宅建業者の重要事項説明書作成・交付義務のように法的根拠がないことから作成をしていない損保会社もある。
作成されている「重要事項説明書」は、いずれも「地震免責条項」を重要事項の一つとして説明をしているものの、その体裁・記載内容は各社まちまちである。即ち、(イ)「火災保険申込書」の「お客様控」の裏面に印刷しているもの、(ロ)1枚もののリーフレット形式となっているもの、(ハ)イラスト入りで且つカラー刷りをしているもの、(ニ)文章だけのもの、(ホ)活字の色が薄く読みにくいもの、等様々であり統一されていない。
又、宅建業法35条の重要事項説明書のように間違いなく説明を行ったことを保証・確認するための契約者の署名・捺印欄はなく、又、説明者が誰であるかを記載する欄もない(宅建業法35条4項では取引主任者の記名・捺印を義務づけている)。このため、契約者が重要事項説明書により説明を受けたか否か書類上確認をすることができない。
(6)「火災保険約款」は、従前どおり契約締結後に初めて契約者に送付されてくる。しかし、活字は小さく、分量も多いため契約者の大部分は目を通さないといわれている。
2.口頭での説明時に使用される書面
損保各社は、以上のとおり勧誘時・契約締結時に「パンフレット」「契約のしおり」「重要事項説明書」(但し、重要事項説明書を作成していない損保会社があることは前述したとおりである)を交付している。
各社において地震免責条項及び地震保険を説明する際に、上記書面の内、どの書面を用いて説明を行っているのかは当会の調査によっても必ずしも明らかにならなかったが、実情は各社あるいは各担当者の判断により説明時に使用する書面の選択がなされているものと思われる。
第2.改善への提言
第1で述べた勧誘時・契約時の実態に鑑みて、地震免責条項につき契約者がより正確な理解を得られるよう、交付書面・口頭説明につき、以下のとおりの改善策を提言する。
なお、以下の提言は、「損害保険募集に際し保険契約の契約内容や予想配当等を表示すること(告げることを含む。)は、保険契約者若しくは被保険者又は不特定の者が契約締結の可否判断を行うに当たっての重要な材料であり、保険契約者等の保険商品選択の利便に資するものである。したがって、損害保険会社は、これらの表示を行う場合には、保険業法第300条第1項各号に列記する事項に違反しないことは勿論、可能な限り客観的かつわかり易い表示を行って、保険契約者等に誤解を生じさせ、判断を誤らせることがないよう努めるものとする。なお、損害保険会社は、代理店に対しても、この趣旨を踏まえ適切な指導を行うものとする」との大蔵省通達(平成8年4月1日付蔵銀第525号)並びに同通達の具体的な取扱いにつき「表示には、パンフレット、ご契約のしおり等の募集のために使用される文書及び図画」を含むとした大蔵省事務連絡(平成8年4月1日付)の趣旨にも合致するするものであると理解しています。
1.交付書面についての提言
(1)パンフレットの地震免責条項に関する記載は、全ての免責態様を網羅した正確な内容に改める。
(2)パンフレット及び契約のしおり等での地震免責条項の説明部分のタイ トルとして「地震保険」というような紛らわしいものを使用しない。
(3)重要事項説明書は必ず作成し、「説明者の氏名」、「説明年月日」、「説明を受けた者の氏名・捺印」欄を新たに設ける。
(4)重要事項説明書は大きな活字で、且つ、イラスト、カラー文字等を使用して地震免責条項につき正確な理解が得られるよう、より一層の工夫をする。
(5)火災保険申込書の「地震保険確認欄」は「契約申込のための捺印欄」とは別の位置に設けるよう改め、且つ契約者がその意味を理解せずに確認印を押捺することがないよう、赤字の大きな活字の「地震保険を申し込まない」との確認事項とする。
2.口頭の説明についての提言
現行の地震免責条項の内容は複雑であることから、書面での説明は契約者の十分な理解を得ることは必ずしも容易でない。
したがって、勧誘時及び契約締結時における口頭での補足説明が不可欠であると考える。しかるところ、現状では口頭での説明は義務づけられておらず、又、口頭での説明が行われる場合もその説明方法・説明内容も各社統一されていない。更に、事後に第三者がその点につき検証する方法も確立していない。
以上の実情からして、損保各社において、
(1)最低限重要事項説明書を用いて口頭の説明をすること、
(2)そのための社員教育を徹底すること、
(3)(1)の口頭の説明を必ず履行させるための保証と同説明がなされたか否かを事後的に確認できるよう、重要事項説明書に「説明者の氏名」・「説明年月日」を明示し、且つ、「実際に説明を受けた者の署名・捺印」欄を設けること、
を提言する。
II.火災共済
第1.火災共済契約時の地震免責条項の説明方法・説明内容の実態
1.加入手続
当会の今回の調査で回答を得ることができた火災共済は「全国生協連の県民共済」と「神戸市民生協の火災共済」の2共済であった。
上記2共済の加入手続は以下のとおりである。
(1) 県民共済
[1] 銀行等の窓口に置いてある「説明書兼加入申込書」を用いて銀行等経由で直接申込むため、共済担当者から勧誘を受けることはない。したがって、「説明書」は契約者が自分で読んで理解するしかなく、口頭による説明はない。「説明書」には、地震免責条項について小さな活字で「地震等に起因する火災等は見舞金のお支払となります」と印刷してあるだけで、その他の説明はない。
[2] 加入後共済組合員となった契約者に、「しおり」が送付されてくる。しかし、「しおり」に関し、電話等による口頭の説明はなされていない。「しおり」には、共済金の支払ができない場合の1つとして「原因が直接か間接かを問わず、地震…によって生じた火災等…による損害」と記載がある。
[3] 組合規約は、加入後も契約者に交付されていない。
(2) 神戸市民生協火災共済
[1] 用意されている書類は、パンフレット及び以下の5枚綴の共済申込書だけである。
1枚目「火災共済契約申込書(控)」
2枚目「火災共済契約申込書(市民生協用)」
3枚目「火災共済契約証書兼領収証」
4枚目「課税所得控除火災共済掛金証明書」
5枚目「ご契約にあたって」
[2] パンフレットでは、最下段に目立たない小さな文字で「地震災害による火災の場合、共済金のお支払はできません」とだけ書いてあるだけであり、余程注意して読まないとその存在すら判らない体裁となっている。前述のとおり損保各社のパンフレットではイラストを用いたりして契約書の理解を得るためのそれなりの工夫がなされているが、神戸市民生協のパンフレットでは、かような工夫・努力が全く窺えない。
[3] 上記共済申込書の綴りの内「ご契約にあたって」が共済の説明文書になっており、裏面に「共済金をお支払できない場合」として、「原因が直接であると間接であるとを問わず、地震または噴火によって生じた火災等による損害の場合」と、小文字で書いてある。この表現は、規約と異なっていた従来の不正確な表現「地震・噴火によって生じた損害の場合」を改めて、規約どおりの正確な表現に訂正したものである。しかしながら、地震免責条項につき口頭の説明がなされているのか否か、同説明がなされているとして、いかなる説明内容なのかは不明である。
[4] 組合規約の交付はなされておらず、「ご契約にあたって」の中で、「なお、火災共済事業規約は、お申し出いただきましたら、ご送付い たします」と「ご契約にあたって」内に記載されているだけである。
2.火災共済の加入手続時の問題点とその改善への提言
(1) 県民共済
(問題点)
「加入時に申込者が唯一入手する『説明書兼加入申込書』には、小さな活字で「地震等に起因する火災等は、見舞金のお支払となります」と記載してあるだけである。したがって、同書面によって地震免責条項の正しい理解を得ることは極めて困難である。
加入後送付されてくる「しおり」には“共済金のお支払ができない場合”の一つとして「原因が直接か間接かを問わず、地震……によって生じた火災等による損害」と規約の地震免責条項が記載されている。しかし、「しおり」につき口頭の説明はなされないシステムとなっているため、地震免責条項の存在並びにその正しい理解が得られないまま共済契約に加入しているケースは少なくないと容易に推測できる。
(改善策の提言)
イ.「説明書兼加入申込書」にも「しおり」の記載と同様の地震免責 条項の説明を入れるべきである。
ロ.加入手続時に、地震免責条項に関して口頭の説明をなすべきである。例えば、コストはかかるがクレジット会社の利用時の確認と同様に共済申込受付時に共済側から申込者に架電し、地震免責条項の説明を行ったうえで加入の意思の確認をする等の方法を検討すべきである。
ハ.規約は必ず契約者に送付すべきである。
(2) 神戸市民生協
(問題点)
前述したとおりパンフレットの地震免責条項に関する記載は規約や 「ご契約にあたって」の表現と異なる不正確なものであり、且つ、見落としやすい体裁となっている。
契約者に交付される「ご契約にあたって」との書面も地震免責条項の説明部分で使用されている活字が極めて小さいため契約者の注意をひくには十分でない。又、地震免責条項が適用される範囲は規約の文言だけでは十分な理解を得ることが困難であることから、イラスト等を利用した判りやすい説明書の交付並びに口頭での補足説明が必要であると思われる。
(改善策の提言)
イ.パンフレットの地震免責条項の記載を正確な記載に改める。
ロ.パンフレット及び「ご契約にあたって」の地震免責条項に関する記載につき、正確な理解を容易に得られるように内容・体裁を改める。
ハ.地震免責条項の存在及びその適用範囲等につき、口頭での説明を 必ず行う制度を導入すべきである。
ニ.規約は必ず契約者に送付すべきである。