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意見表明(1998年-2010年)

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労働法改正案に対する会長声明

1998年(平成10年)5月7日
神戸弁護士会 会長 小越 芳保

1 政府は、「労働基準法の一部を改正する法律案」を、本年2月10日、国会に提出した。

 しかし、上記法律案は、これまでの、日本弁護士連合会の下記の意見書、決議を無視した内容となっており、誠に遺憾である。

 日本弁護士連合会は、昨年10月16日に、「『今後の労働時間法制及び労働契約等法制の在り方』に関する労働省試案及び中央労働基準審議会部会の『中間とりまとめ』に対する意見書」を発表し、10月23日開催の人権擁護大会において、「時間外・休日・深夜労働について男女共通の法的規制を求める決議」を採択し、男女共通の時間外・休日・深夜労働の規制を求めてきた。また、12月11日に労働時間法制及び労働契約等法制の整備について行われた中央労働基準審議会の建議に対しては、同日この建議に反対するとともに、労働省に対し、今後の法改正作業に当たり、本来の労働基準法の趣旨にそった検討を十分されるよう求める旨の会長声明を発表してきた。

2 2月10日に上程された法律案の主な内容は、労働基準法の「[1]労働契約期間の上限を3年にするとの規定の新設、[2]1年単位の変形労働制の要件の緩和、[3]現行の裁量労働制に加えた新たな裁量労働制の創設、[4]時間外労働の上限に関する根拠条文の創設」というもので、労働者の人間らしく働く権利を保障するものとはなっていない。

 上記[1]の一定の範囲の労働者について、一定の要件のもとに、労働契約期間の上限を3年にするという新たな規定については、要件があいまいであり、現行法において労働契約は原則として、期間の定めのないものとして判例法理により解雇を厳しく規制しているのに対し、期間満了を理由に容易に労働契約を終了させやすくする者の範囲を拡大し、使用者の恣意による拡大適用の危険性があるもので、雇用を不安定にする可能性が大きい。

[2]の1年単位の変形労働時間制において、所定労働時間の限度を一律に1日10時間、1週52時間と上限を緩和することを予定し、対象労働者の範囲も拡大することについては、1日の労働時間を延長するとともに不規則労働を強いる結果となり、1日8時間、1週40時間制を根本から崩すこととなる。

[3]の新たな裁量労働制の創設については、対象業務があいまいなため、ホワイトカラー全般に及ぶ可能性があるものである。裁量労働制は、いかに長時間働いても、定められた労働時間のみ働いたものとみなすもので、労働時間の上限規制をなくし、かつ時間外手当てを削減して実質賃下げにつながるものであるし、裁量労働制の拡大は、長時間・過密労働を減らすどころか、さらに拍車をかけることとなる。

[4]の時間外労働の上限に関する基準を定めることができるとする規定の創設については、単に労働時間の上限に関する基準を定める根拠を法定するのみで、法的強制力はなく、現在の長時間労働をなくすることは期待できない。

 また、法案では、深夜労働については、何らの規制も設けておらず、女子保護規定が撤廃された上、男女共通の労働時間についての規制がなされないままでは、家庭責任を十分担えない男性労働者を一層多くつくりだし、現状では、家庭責任を負っている女性労働者にとって、ますます過酷な労働条件となるとともに、かえって男女の役割分担を固定する結果となることが懸念される。

3 以上のとおり、今回の改正法案は、従来の労働法制、特に労働時間について根底から覆しかねないし、男女ともに、人間らしく働きつづけることをますます困難にしていくものであるから、このような法案に対し、断固反対するものである。