(須磨少年事件に関連して)株式会社新潮社に対する申入書
1998年(平成10年)3月10日
株式会社 新潮社 御中
神戸弁護士会 会長 間瀬 俊道
申入書
貴社は、3月4日発売の「FOCUS」誌において、昨年神戸市内で発生した小学生殺傷事件に関し、この事件で保護処分を受けた少年が書いたとされる犯行ノートや作文などの写真を掲載しております。
貴社の今回のこのような掲載は、現行少年法の精神に反するものと言うだけではなく、被害者やその遺族らのプライパシーを侵害するものとして到底許されるものではありません。
少年法は、少年審判手続を非公開と定めておりますが、これは少年の成長発達する力に着目して少年の立ち直りを援助しようとするものであり、このことから少年の成長発達に影響を与えるような報道を厳しく制限しているものです。少年法の精神からすれば、この少年審判非公開の原則は、単に捜査手続や審判過程にとどまるものではなく、処遇時においてもまた処遇終了後においても貫かれなければならないものです。したがって、法治社会におけるメディアとしても少年の更生に影響を与えるような報道は厳に慎まなければなりません。今回「FOCUS」誌に掲載された犯行ノートや作文などは、少年審判手続において資料となったものとされ、本来ならば公表されるはずのないものであるばかりか、その入手経過についても同誌編集部に郵送され、その送り主も意図も不明のままであるとされております。このような資料を少年法の精神に背馳してあえて掲載することは、社会的責任を負うべき言論機関として許されないものと言うほかありません。
当会は、昨年7月以降、神戸市須磨区の少年事件や堺市内で発生した幼児殺害事件に関して、貴社の少年法を軽視する人権侵害報道に対して、再三にわたり抗議の意を表明してきました。
しかるに、このたび、少年法をないがしろにするだけでなく、被害者やその家族のプライバシーを踏みにじるような報道を繰り返したことは誠に遺憾であり、あらためて厳重に抗議するとともに、このような報道を繰り返すことのないように強く要請するものです。