弁護士の職務は、法律相談・裁判・交渉・契約書作成などの法律事務全般です(弁護士法第3条)。
その一方で、弁護士でない人(会社も含みます)が法律事務を扱うのは原則として禁止されています。
弁護士でない人(会社も含みます)が法律事務を扱うと、法律で例外的に認められていない限り、刑罰に処せられる可能性もあります。行政書士は、行政書士法という法律で、例外的に一部の法律事務を扱うことが認められていますが、弁護士に比べるときわめて限定された範囲内でしか法律事務を取り扱うことができません。
行政書士の業務範囲については法律の解釈をめぐって争われている部分もありますが、少なくとも紛争性がある案件(当事者間で何らかの争いのある案件)について、行政書士が法律事務を取り扱うことができないことに争いはありません。
法律に関することで何か困ったことが起きたときというのは、大抵は当事者間で何らかの争いが発生している場合でしょう。そのような時は弁護士にご相談下さい。
法律相談(遺産分割協議会書の作成相談を例として)における業務範囲の違い
遺産分割協議書作成相談の一般的な流れ
弁護士 | 行政書士 | ||
(1)どのような内容の遺産分割協議書にするか についての相談 |
○ | × | |
(2)どのような文章で遺産分割協議書を作成 するかについての相談 |
○ | ○ |
弁護士の業務範囲には法律相談が含まれています。法律相談には制限が無く、依頼者から事情を聞いて、依頼者と一緒に考え、依頼者にとって一番良いと思われる方法を提案することができます。弁護士は交渉や裁判を仕事にしているので、仮に紛争になった場合を踏まえてアドバイスすることができ、また実務的な知識や経験も豊富です。裁判を取り扱うことができない行政書士と大きく異なる点です。
行政書士の業務範囲には法律相談は含まれません。行政書士は、書類作成に必要な範囲内では依頼者の相談に乗ることができるに留まります。
例えば、遺産分割協議書の作成については、
・ 相続全般に関する一般的な説明は、弁護士も行政書士も共通して行うことができますが、
・ どのような内容の遺産分割協議書にするか等の個別具体的な相談については、法律相談となるので、弁護士は行えますが、行政書士は行えません。
法律相談は弁護士にお任せ下さい。
示談交渉における弁護士と行政書士の違い
一般的な示談交渉の流れ
弁護士 | 行政書士 | |||
(1)相手方に自分の主張を書いた書類を送る | ○ | × | ||
(2)相手方と交渉する | ○ | × | ||
交渉まとまらず | 交渉まとまる | |||
(3)和解書や合意書を 作成する |
○ | ○ | ||
(4)裁判手続にするかどうか検討する | ○ | × |
上図のうち弁護士は(1)から(4)の全てが業務範囲ですが、行政書士が取り扱えるのは(3)のみです。
弁護士は依頼者の代理人として、相手方と交渉することができますが、行政書士は依頼者の代理人となることはできないので、相手方と交渉することはできません。
示談交渉は弁護士にお任せ下さい。
Q.行政書士は貸したお金の請求書や賃貸している部屋の解除通知書等を作成できるか。 |
契約書作成における業務範囲の違い
一般的な契約書作成の流れ
弁護士 | 行政書士 | ||
(1)契約書の原案を作成する | ○ | ○ | |
(2)契約の相手方に原案を提示する | ○ | × | |
(3)契約の内容について交渉する | ○ | × | |
相手方との間で契約内容がまとまる | |||
(4)正式な契約書を作成する | ○ | ○ |
上図のうち、弁護士は(1)から(4)まで全て取り扱うことができますが、行政書士ができるのは(1)(4)のみです。
但し、(1)については、弁護士は内容の是非までアドバイスできますが、行政書士は内容の是非まではアドバイスできません。行政書士に契約書作成を依頼する場合には、依頼者がどういう内容の契約書にしたいのかを予め確定させておかなければなりませんし、場合によっては素案を持ち込まなければなりません。
契約書は後日争いになった場合、裁判で通用する内容でなければなりません。弁護士は、交渉で紛争を解決したり、裁判で立証したりことを主な仕事にしているので、仮に裁判になった場合に裁判官がどう判断するかを見越して、契約書の文面を考えることができ、また実務的な知識や経験も豊富です。裁判に関与することができない行政書士を大きく異なる点です。
(2)(3)については、示談交渉になりますので、行政書士が取り扱うことができません(Q2示談交渉における弁護士と行政書士の違いを参考にして下さい)。
契約書作成は弁護士にお任せ下さい。
民事裁判における業務範囲の違い
弁護士 | ||||||
依頼者 | 代理人となる事ができる | ○ | 民事裁判 ・調停の申立 ・訴訟の提起 ・裁判書類の作成 |
|||
行政書士 | ||||||
代理人となる事ができない | × |
弁護士は、依頼者の代理人として、調停の申立てや訴訟の提起などの訴訟行為を行うことができます。依頼者の代わりに裁判期日に出頭することもできます。
行政書士は依頼者の代理人となることはできないので、調停の申立てや訴訟の提起を行うことはできません。
行政書士は、依頼者名であっても、依頼者の為に調停申立書や訴状等の裁判書類を作成することもできません(これは弁護士や司法書士の業務範囲とされています)。行政書士の名前を出さない形で訴状等を作成することも業務範囲外です。
民事・家事事件の裁判は弁護士にお任せ下さい。
借金問題における業務範囲の違い
借金問題の一般的な解決の流れ
弁護士 | 行政書士 | |||
(1)法律相談 | ○ | × | ||
(2)債権者に受任通知・履歴開示請求等の 文書を発送 |
○ | × | ||
(3)利息制限法に基づく引直計算をして 債権額を確定 |
○ | × | ||
過払金が発生していた場合 | ||||
(4)過払金の回収 | ○ | × | ||
(5)最終的な方針を確定 | ○ | × | ||
任意整理 | 破産・民事再生 | |||
(6)A 裁判所への申立 | ○ | × | ||
(6)B 債権者との示談交渉 | ○ | × |
上図のうち、弁護士は(1)から(6)までの全てが業務範囲ですが、行政書士は全て業務範囲外です。紛争性のある案件を行政書士は取り扱うことができないところ、そもそも借金問題については、債権者との間で紛争性がありますので、行政書士は一切関与できないことになります。
弁護士が受任通知を送付すると、貸金業者からの請求が止まります。しかし、行政書士は依頼者の代理人となることはできないので、そもそも受任通知書を送付することができず、貸金業者からの請求は止まりません。
(4)や(6)Bについては、示談交渉や民事裁判となりますので、行政書士が取り扱うことはできません。Q2 示談交渉における弁護士と行政書士の違い、Q4 民事裁判における弁護士と行政書士の違いを参考にして下さい。
(6)Aについては民事裁判となりますので、行政書士が取り扱うことはできません。Q4 民事裁判における弁護士と行政書士の違いを参考にして下さい。
借金問題については、弁護士にお任せ下さい。
離婚事件における弁護士と行政書士の違い
一般的な離婚事件の流れ
弁護士 | 行政書士 | |||
(1)法律相談 | ○ | × | ||
(2)相手方と交渉する | ○ | × | ||
交渉まとまらず | 交渉まとまる | |||
(3)A 離婚協議書などを 作成する |
○ | ○ | ||
(4)B 調停などの裁判手続を行う | ○ | × |
上図のうち、弁護士は(1)から(3)までの全てが業務範囲に含まれます。行政書士の業務範囲は(3)Aのみです。なお、(3)Aについては公証役場に行けば、公証人も作成してくれるでしょう。
行政書士は、紛争性がある案件については業務を行うことができません。配偶者ともめている案件ではそもそも紛争性がありますので、一切の業務を行うことができません。
慰謝料について、請求が可能なのか、可能であるとしていくらが相当であるかなどについての相談は法律相談に該当するので、行政書士の業務範囲ではありません。
(1)については、Q1 相談における弁護士と行政書士の違いを参考にして下さい。
(2)については、示談交渉となりますので、Q2 示談交渉における弁護士と行政書士の違いを参考にして下さい。
(3)Bについては、家事裁判となりますので、Q4 民事・家事裁判における弁護士と行政書士の違いを参考にして下さい。
離婚事件は弁護士にお任せ下さい。
遺言書作成における業務範囲の違い
遺言書作成の一般的な流れ
弁護士 | 行政書士 | ||
(1)法律相談(内容の検討も含む) | ○ | × | |
(2)遺言書の原稿作成 | ○ | ○ | |
(3)正式な遺言書の作成 | 自筆証書遺言:遺言者自身 公正証書遺言:公証人 |
遺言書には色々な方式がありますが、主なものは自筆証書遺言と公正証書遺言です。自筆証書遺言は遺言者が全て自筆で記載して作成し、公正証書遺言は公証人が作成します。
上図のうち、弁護士は上記(1)(2)が業務範囲ですが、行政書士は(2)のみが業務範囲です。
(3)については、遺言者自身が作成するか(自筆証書遺言の場合)、公証人が作成する(公正証書遺言の場合)ことになります。
遺言書の内容をどのようにすれば良いかについての相談は法律相談となるので、行政書士の業務範囲ではありません(Q1 相談における弁護士と行政書士の違いをご参照下さい)。
遺言書は後で相続人の間でもめて、調停や審判などになっても、遺言者の意思をできるだけ実現できるように、これらの場で通用するような内容でなければなりません。書き方によっては無効になったり、争いを招いたりすることが多々あるので、内容も重要です。
遺言書作成については弁護士にお任せ下さい。
相続事件における業務範囲の違い
一般的な相続事件の流れ
弁護士 | 行政書士 | |||
(1)法律相談 | ○ | × | ||
(2)他の相続人との交渉 | ○ | × | ||
交渉まとまらず | 交渉まとまる | |||
(3)A 遺産分割協議書を作成する | ○ | ○ | ||
(3)B 遺産分割調停などの裁判手続きを行う | ○ | × |
上図のうち、弁護士は(1)から(3)の全てが業務範囲に含まれますが、行政書士の業務範囲は(3)Aのみに限られます。
行政書士は、紛争性がある案件については業務を行うことができません。他の相続人ともめている案件ではそもそも紛争性がありますので、一切の業務を行うことができないことになります。
相続人間でどのように遺産を分けるのが良いかなどについての相談は法律相談に該当するので、行政書士の業務範囲ではありません。
(1)については、Q1 相談における弁護士と行政書士の違いを参考にして下さい。
(2)については、Q2 示談交渉となりますので、示談交渉における弁護士と行政書士の違いを参考にして下さい。
(3)Bについては、家事裁判となりますので、Q4 民事・家事裁判における弁護士と行政書士の違いを参考にして下さい。
相続事件については弁護士にお任せ下さい。
本ページは、札幌弁護士会のウェブサイト「弁護士と行政書士の違い」をもとに作成しました。札幌弁護士会の多大なるご協力に対し、この場を借りて御礼申し上げます。
弁護士 | 行政書士 | ||
(1)自賠責保険への被害者請求の手続きを行う | ○ | △ | |
(2)後遺障害等級認定の妥当性・加害者や 保険会社に請求できる損害賠償額・ 過失割合などを相談する |
○ | × | |
(3)加害者や保険会社に送る書類の内容を考える | ○ | × | |
(4)自分が考えた内容を文章にしてもらう | ○ | ○ | |
(5)加害者や保険会社との交渉 | ○ | × | |
(6)交渉がまとまった際の和解書や合意書の作成 | ○ | ○ | |
(7)加害者や保険会社との調停 | ○ | × | |
(8)加害者や保険会社との裁判 | ○ | × |
また、後遺障害等級認定が妥当かどうか、過失割合、損害賠償額の検討は、法的な専門知識を要する鑑定であり、これらの相談に応じることは正に法律相談となりますので、行政書士が対応することはできません。
自賠責保険への被害者請求手続きについては、定型書式の作成や定型の資料の提出など簡単な作業にとどまる場合には行いうる余地があります。
しかし、保険会社に治療費の対応を打ち切られたり、大きな過失割合を追及されたり、後遺障害等級該当性を争われたりしている場合などは、法的に紛争性がある案件といえ、やはり行政書士が対応することはできない問題です。
結局のところ、行政書士は、最終的な解決まで対応することはできませんので、交通事故に関する問題は弁護士にお任せ下さい。