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2024年

痴漢の犯人から個人情報守りたい -刑事手続きの中で秘匿可能

 神戸新聞2024年7月17日掲載
執筆者:武藤 敏之 弁護士

電車内で知らない人に痴漢をされ、犯人はその場で逮捕されました。私の名前や住所が犯人に伝わらないか心配ですし、犯人には二度と会いたくありません。何か配慮はあるのでしょうか。

 犯人は、刑事手続きに付されて処分が決まりますが、刑事手続きの中で、被害者の名前や住所が犯人に伝わらないよう法律上配慮がされています。

 一般に刑事手続きは、各段階に応じて、逮捕状、勾留状、起訴状、判決書といった書類が作成されます。これらに被害者の氏名や住所が記載される場合があり、従来はそのままの状態で被疑者・被告人に提示・交付されていました。

 しかし、被害者保護などの観点から刑事訴訟法が改正され、性犯罪などの一定の類型事件については、被疑者などに提示・交付される各書類において被害者を特定する情報(個人特定事項)を表示しないという秘匿措置などを取ることが可能となっています。本件も秘匿措置の対象になる事件ですので担当の警察官や検察官に名前や住所を隠してほしいと速やかに申し出て秘匿措置を取ってもらいましょう。

 会いたくないという希望については、示談の中で約束してもらうことが一つの方法です。刑事手続きの中では被疑者・被告人に弁護人が就任する場合がほとんどで、相談者にも弁護人から示談の連絡があると思います。示談の内容や方法は自由に決められますので、弁護人に、二度と会いたくないという希望を伝えて、例えば、「犯行が行われた路線の一定区間を使用しない」といった制約を示談の内容に盛り込んでもらいましょう。

 示談に応じるかどうかは被害者の自由ですし、示談に応じると被疑者・被告人を許すことに繋がりますので、相談者の求める条件を受け入れないのであれば示談に応じないという選択肢もあります。

 示談書には被害者の名前が記載されますので、本来は被疑者・被告人に相談者の名前が伝わることになります。相談者の名前をマスキングした示談書を渡すなどの措置を取ることも弁護人に申し入れましょう。

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