神戸新聞2017年9月6日掲載
執筆者:吉本 圭介弁護士
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私の夫が亡くなりました。夫から相続する財産には、預貯金と不動産があります。遺産分割協議がまとまらない段階でも、預貯金を解約することはできるでしょうか?
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亡くなった夫の相続人が複数いる場合、有効な遺言書がない限り、遺産分割協議により相続財産の分け方を決めることになります。
ただし、従来の裁判所の考え(判例)では、預貯金については可分債権であることから、共同相続人全員の合意のない限り遺産分割協議の対象とならず、原則として「法定相続分に従い当然に分割して承継される」とされていました。
すなわち、預貯金は「当然に分割され」各相続人に帰属することから、遺産分割協議がまとまらなくても、各相続人は理論上、金融機関に対して法定相続分に応じた額の払い戻しを請求できるとされていたのです。
もっとも、従来の実務では、金融機関によって対応が異なり、相続人全員の同意を求めたり、遺産分割協議の成立の見込みがない場合などにはその事情を説明して、法定相続分の限度で払い戻し請求に応じたりしていました。金融機関が払い戻しに応じなければ、訴訟を提起することもありました。
ところが、最高裁大法廷(2016年12月19日)は、従来の裁判所の考え方を変更して、預貯金は「相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる」との考えを示しました。すなわち、預貯金が他の相続財産と共に遺産分割の対象となるのですから、遺産分割協議がまとまらない限り、各相続人は預貯金の払い戻しを請求することができないことになります。
今後、銀行の対応は従来と異なり、遺産分割協議が終了するまで、共同相続人の一人から預貯金相続分の払い戻し請求があっても応じないという扱いで統一されることになるでしょう。
従って、質問の回答としては、遺産分割協議がまとまらない段階で預貯金を解約することはできないと言えるでしょう。 なお、新しい判例は普通預金と定期貯金についてのものですが、この考えは、ゆうちょ銀行の定額貯金やその他の金融機関の定期預金にも及ぶと考えられます。