●060124 最高裁
●最高裁 平成16年(受)第424号
●裁判官 上田豊三、濱田邦夫、藤田宙靖、堀籠幸男(第三小法廷)  ●代理人 呉東ほか
●呉東弁護士による報告

●要旨

◎貸金業法17条1項が、貸金業者につき、貸付けに係る契約を締結したときに、17条書面を交付すべき義務を定め、また、同法18条1項が、貸金業者につき、貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときに,18条書面を交付すべき義務を定めた趣旨は、貸付けに係る合意の内容や弁済の内容を書面化することで、貸金業者の業務の適正な運営を確保するとともに、後日になって当事者間に貸付けに係る合意の内容や弁済の内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあると解される。したがって,17条書面及び18条書面の貸金業法17条1項及び18条1項所定の事項の記載内容が正確でないときや明確でないときにも、同法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきであって、有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない。
◎17条書面には「貸付けの金額」を記載しなければならないが各借用証書には、「契約手渡金額」欄があり、同欄の下部には、「上記のとおり借用し本日この金員を受領しました。」との記載があるにもかかわらず、上記「契約手渡金額」欄には、上記各貸付けに係る契約の際に被上告人から上告人らに実際に手渡された金額ではなく、実際に手渡された金額とその直前の貸付金の残元本の金額との合計金額が記載されていたというのであるから、これらの借用証書の上記事項の記載内容は正確でないというべきである。そうすると、これらの借用証書の写しの交付をもって,17条書面の交付がされたものとみることはできない。このことは、借用証書に別途従前の貸付けの債務の残高が記載されているとしても、左右されるものではない。
◎17条書面には「各回の返済期日及び返済金額」を記載しなければならない。本件では集金休日の合意があるところ、各借用証書において、集金休日の記載がされていなかったり、「その他取引をなさない慣習のある休日」を集金休日とする旨の記載がされていたとしても、これらの借用証書の記載内容は明確でないというべきであるから、これらの借用証書の写しの交付をもって,17条書面の交付がされたものとみることはできない。このことは、これらの借用証書に記載されていない期日を集金休日とすることについて、被上告人があらかじめ上告人らに連絡しており、上告人らがかかる取扱いについで格別の異議を述べていなかったとしても、左右されるものではない。
◎18条書面には「受領金額及びその利息、賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額」を記載しなければならない。領収書においては、受領金額の記載が誤っていた場合には、この領収書の上記事項の記載内容は正確でないというべきである。そうすると、この領収書の交付をもって,18条書面の交付がされたものとみることはできない。このことは、被上告人においてあえて虚偽の金額を記載したわけではなく、また、上記誤記が上告人に不利益を被らせるものでなかったとしても、左右されるものではない。
◎貸金業法43条1項の規定の適用要件については、これを厳格に解釈すべきものであるから、債務者が、事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には、制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず、同項の規定の適用要件を欠くというべきである。
◎本件期限の利益喪失条項がその文言どおりの効力を有するとすれば、上告人らは、支払期日に制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には、元本についての期限の利益を当然に喪失し、残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになるが、このような結果は、上告人らに対し、期限の利益を喪失する不利益を避けるため、本来は利息制限法1条1項によって支払義務を負わない制限超過部分の支払を強制することとなるから、同項の趣旨に反し容認することができない。
◎本件期限の利益喪失条項のうち、制限超過部分の利息の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は、利息制限法1条1項の趣旨に反して無効であり、上告人らは、支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば、期限の利益を喪失することはなく、支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り、期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
◎本件期限の利益喪失条項は、法律上は、上記のように一部無効であって、制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないものであるが、この条項の存在は、通常、債務者に対し、支払期日に約定の元本及び制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り、期限の利益を喪失し、残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになるとの誤解を与え、その結果、このような不利益を回避するために、制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。したがって、本件期限の利益喪失条項の下で、債務者が、利息として、制限超過部分を支払った場合には、上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り、債務者が自己の自由な意思によって支払ったものということはできないと解するのが相当である。
◎出資法附則8項が、日賦貸金業者について一般の貸金業者よりも著しく高い利息について貸金業法43条1項の規定が適用されるものとした趣旨は、日賦貸金業者が、小規模の物品販売業者等の資金需要にこたえるものであり,100日以上の返済期間、毎日のように貸付けの相手方の営業所又は住所において集金する方法により少額の金銭を取り立てるという出資法附則9項所定の業務の方法による貸金業のみを行うものであるため、債権額に比して債権回収に必要な労力と費用が現実に極めて大きなものになるという格別の事情があるからであると考えられる。そうすると、日賦貸金業者について貸金業法43条1項の規定が適用されるためには、契約締結時の契約内容において出資法附則9項所定の各要件が充足されている必要があることはもとより、実際の貸付けにおいても上記各要件が現実に充足されている必要があると解するのが相当である。
◎契約締結時の契約内容においては、返済期間が100日以上と定められていたところ、約定の返済期間の途中で、残元本に貸増しが行われ、貸増し後の元本の合計金額を契約金額として、新たに貸付けに係る契約が締結され、元の貸付けに係る債務が消滅したために、同債務については、返済期間が100日未満となったものであり、契約締結時の契約内容においては出資法附則9項2号所定の要件が充足されていたが、実際の貸付けにおいては上記要件が現実に充足されていなかったのであるから、貸金業法43条1項の規定の適用はない。

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